作風は持たない。詠み人知らずの家をつくりたい。

建築家としての長いキャリアを経て思うのは、「住む人と一緒に年をとる家」「記憶に残る住まい」の価値です。流行のデザインや新しい素材を使った家もいいでしょう。でも、みんなと同じような家では面白くない。自然素材を丁寧に使い、歳月とともに居心地よく味わいを深める住まいをつくりたいですね。住まい手らしさを醸し出し、子どもたちの成長を見守るような、どこか温かく懐かしい家。家族を幸せにする家です。
そのために大切にしているのが、土地・施主・職人・建築家の4つの“イキ”。土地もお客様も世界でオンリーワンの存在ですから、マイホームも土地の個性やお客様の生き様を大切にしたいのです。建築家の個性を主張するのではなく、家づくりに関わる全員がひとつの「Creation Party=創造する仲間」となってオンリーワンの家をつくる。建築家が敢えて「詠み人知らず」を目指すことで、その土地・その人に最高の住まいができるのです。

日常に非日常を仕掛ける。毎日に楽しみな時間が生まれる。

印象的な家があります。
そのご家庭は、玄関先で対応する仕事関係の来客が多かったので、玄関を入った土間スペースにテーブルとイスが置ける丸いホールをつくりました。ホール上部のトップライトから燦々と陽が入る、非日常で居心地のいい空間になりました。入居されてから数カ月後にそのお宅を訪問すると、奥様はこうおっしゃいました。「このホールは、私のお気に入りの場所なんですよ。家事やショッピングを終えた午後3時に、このホールでお茶を飲みながら本を読むひとときが、私は大好きなんです」
束の間でも日常を忘れさせる空間があれば、暮らしの豊かさはぐんと広がります。そのポイントは、陽射しや季節感など自然を感じさせる場所であること。眺めのいい屋上、四季が移ろう坪庭、床の間や玄関のニッチでも、ちょっと花を飾るだけで心が和みます。そんな、非日常を楽しむ工夫を凝らすことが、私自身の家づくりのこだわりでもあります。

家づくりは、巣づくり。夫婦が力を合わせて幸せを築いてほしい。

家が好きで家で過ごす時間が長いご夫婦は、建築家の私から見ても「素晴らしい」と思う家を建てられます。二人で大好きな家をつくろうという思いは、いい家をつくる何よりのエネルギーなんです。最近は奥様が家づくりのイニシアティブをとることが多いですが、旦那さんもどんどん参加して欲しいですね。そうすれば家づくりはもっと面白くなりますし、もっといい家ができると思います。
実は、家づくりを通じて夫婦仲が良くなったという話はよくあるんですよ。同じ目的に向かって共同作業をしていくうちに絆が強くなるんですね。そう考えると、家づくりというのはまさに巣づくりと言えるでしょう。家族が幸せになるための場所を、夫婦で、家族で、一緒につくっていく。私も建築家の立場から、床の間やニッチのような非日常の空間を仕掛けて家族の幸せをサポートしていきます。
新しい住まいができて、新しい暮らしが始まる。でも、やがて日常に追われるようになると、新築の頃の気持ちも忘れがちになります。そんな時は、もう一度ニッチに花を飾ってください。新築の頃の幸せや感動がきっと蘇ってくるでしょう。

横山 嘉夫 プロフィール

大阪府藤井寺市出身。一級建築士・インテリアプランナー。1986年の設立以来、数々の注文住宅、分譲住宅、店舗や寺院などの建築を手掛ける。 日本建築家協会、兵庫県建築士会、兵庫県建築士事務所協会所属。趣味はゴルフと料理。

OTHER WORKS

  • 目神山M邸

    お子様1人、乳幼児2人と子育て真っ最中の家族のための「楽しい家」。
    急傾斜と言う敷地条件もありスキップした各フロアーに子供のためのスペースを。
    素晴らしい眺望と太陽光を取り入れた明るい家です。

  • e-HOUSE

    どこに居ても子供の気配を感じることができるよう、
    リビング・キッチンから2階ホールと書斎が
    一体となった空間をもつ快適な家。

  • 芦屋奥池の家

    国立公園内に週末だけのセカンドハウスとして
    計画した注文住宅。
    コンセプトは「自然に溶けこむ家」。

  • カヤンドウの家

    冷たい印象を与えるコンクリートの内外壁。
    内部は無垢材の暖かみを加味、外観は柔らかなカーブを
    描いた明るい色調の壁を組み合わせ、
    躍動感溢れるファサードを表現。